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M&A時に知っておきたい人事労務管理のポイントとは?社労士が解説

2023.11.08 お知らせコラム
M&A時に知っておきたい労務管理の基本を社労士が解説

合併・買収(M&A)では転勤や出向等の人事異動が伴うことが多く、処遇や組織文化の違いから労働問題につながる可能性があります。こうした問題を回避するには、しっかりとした人事労務管理計画を立てることが重要です。
本コラムでは人事労務の視点でM&A(合併・買収)時に企業がどのような対応をすればよいのか、まだ気を付けなければいけないポイントについて解説します。

M&Aの背景と人事労務の役割

M&Aにおける人事労務管理の主な役割は、人事制度や労働条件の統合および従業員の融和を成功させることです。
人事労務管理は、従業員のモチベーション低下や離職につながるリスクを回避するためにも重要です。一方で、各種行政手続きや法対応など専門的な知識が必要になってくる分野でもあるため、労働法やM&Aに詳しい専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。

M&A時におけるよくある労務トラブル

コンプライアンス違反や法令遵守の問題

コンプライアンス違反や法令遵守に関する問題が浮上した場合、法的なアドバイスを受けることが不可欠です。法律専門家の指導を得ることで、違反のリスクを最小限に抑えることができます。

従業員の権利や法的リスクに関する問題

人事デューデリジェンスが重要です。このプロセスを通じて、潜在的な問題やリスクを早期に発見し、対処策を練ることが可能です。人事デューデリジェンスによって、労務トラブルを未然に防ぎ、円滑な統合を促進することができます。

人事DD(デューデリジェンス):
M&Aなどの取引を検討する段階で、特に、組織・人材面でのコスト、リスクの洗い出しと買収後の経営を調査・検証する作業のこと

労働条件の統一問題

両企業の労働条件を比較検討し、適切な統合策を策定する必要があります。従業員にとって公平な条件を提供することで、不満や不安を軽減し、組織文化の安定を支えます。

長時間労働や未払い賃金などの問題

従業員の権利を守ることが求められます。適切な手続きを踏み、未払い賃金を支払うなどの対策を講じることで、従業員の信頼を回復し、問題を解決に導きます。また法外な未払い賃金を請求される場合もありますので、そういった場合には請求が適切かどうか、実際に支払わなければいけない金額はいくらか過去の勤務状況等を踏まえて再計算する必要もあります。

人事制度の違いによるトラブル

両企業の制度を比較し、適切な統合策を見つける必要があります。従業員の職務内容や評価基準の整合性を確保することで、混乱を最小限に抑え、統合プロセスを円滑に進めることができます。

従業員のモチベーション低下や離職

従業員の声を聞くことが欠かせません。面談や意識調査など従業員とのコミュニケーションを強化し、懸念や要望に真摯に対応することで、組織内の不安を軽減し、協力を促進することが可能です。従業員が安心感を持つことは、統合プロセスの成功に不可欠です。
そのためには改めて企業理念やこれまで歩んできた歴史・企業カルチャーについて伝えることも重要になってきます。

社会保険手続におけるトラブル

M&Aの場面では、法務、財務対応が先行し、労務対応が遅れることが少なくありません。特に社会保険手続はその際たる例です。一方、社会保険手続は対象従業員やその家族の生活に直接影響を及ぼすものであるため、対応如何では家族も巻き込むトラブルになることもあります。また、M&A時の手続は行政機関と調整しながら進める必要があり、数ヶ月という時間を要することもありますので、初動のタイミングから計画的に準備することが重要です。

吸収合併時の人事労務対応

吸収合併とは、M&Aの一つの手法であり、一方の会社の法人格を残し、他方の会社の法人格を消滅させたうえで、合併により消滅する会社の権利義務の全部を、合併後に存続する会社に承継させる手法です。

吸収合併の特徴は以下の通りです。
・一方の会社の法人格を残し、他方の会社の法人格を消滅させるため、最低でも一つの会社が消滅する点
・統合効果を早期に実現できる点
・事業に必要な権利義務を全て存続会社に包括的に承継できる点

吸収合併時における従業員の権利・義務の扱い

吸収合併において、従業員の権利・義務の扱いは以下のようになります。

・吸収される会社の従業員は、存続会社の従業員となります
・吸収される会社の従業員の労働条件は、存続会社の労働条件に準拠することが一般的です
・吸収される会社の従業員の雇用契約は、存続会社に引き継がれます
・吸収合併によって、従業員の雇用契約が変更される場合は、事前に従業員に通知する必要があります

吸収先・吸収元の社会保険手続きの違い

吸収合併において、吸収先・吸収元の社会保険手続きの違いは以下の通りです。
・吸収される会社の社会保険加入者は、存続会社の社会保険に加入することになります
・吸収される会社の社会保険料は、吸収合併の効力発生日までの期間については、吸収される会社が納付することになります
・吸収合併の効力発生日以降の期間については、存続会社が納付することになります

吸収合併における人事労務管理には、従業員の権利・義務の扱いや社会保険手続きの違いについても注意が必要です。吸収合併によって、従業員の雇用契約が変更される場合は、事前に従業員に通知を行っていきましょう。また、社会保険手続きについても、吸収される会社と存続会社の違いに注意する必要があります。

まとめ

M&A(合併・買収)は企業にとって大きな変革をもたらす重要なプロセスとなってきます。このプロセスにおいて、人事労務管理は特に重要な役割を果たします。これからM&Aを検討している企業の方や、まさに今M&Aの真っ最中という企業の方は改めて、人事労務分野について見直しを行い、現在の従業員の方、新しく仲間に加わる従業員の方が人事労務管理の手続き等で煩わされることなくスムーズに会社の一員として働いていけるよう上記のような点に注意し、M&Aを進めていただければと思います。
また進めていく上でお困りの点等がありましたら専門家に頼ることも一つの解決手法です。当法人でも、実際に「どちらの健康保険組合を残すかの調査」「M&A、分社展開時の出向・転籍手続きについて」などをはじめとして多くのご相談をいただいています。
お困りの際にぜひ一度ご相談ください。

 
執筆者情報
セントラル社会保険労務士法人 代表社員/社会保険労務士 井下英誉
保有資格社会保険労務士
経歴1995年早稲田大学社会科学部卒業。大学にて労働法、組織心理学等の授業を受けたことをきっかけに、人事労務の仕事に興味を持つ。卒業後、社会保険労務士事務所に勤務しながら資格を取得。 中小企業を中心に手続業務や相談業務を3年間経験した後、中堅・大企業向けに給与・社会保険業務のアウトソーシングサービスを提供する組織の立ち上げに中心メンバーとして関わる。 3年間にわたり、上場企業、ベンチャー企業、外資系企業等、様々な規模、業態の企業に対して、日本のアウトソーシングサービスの先駆けとなる効率的なアウトソーシング手法や労務施策の導入を提案。 2001年1月に労務プランニング井下事務所を設立 2014年1月にセントラル社会保険労務士法人へ社名変更
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